私がスリットカメラの撮影をはじめてから30年ほどになりますが、最初から現在のような
品質の写真が撮れたわけではありません。そこで、30余年前から現在に至るまで試行錯誤
によるスリットカメラの撮影に関する私の試みについて、サンプル画像を交えながらご説
明したいと思い、今回の特集を組みました。今後、スリットカメラの撮影など、ご自分でチャ
レンジしてみたい方にとって、少しでも参考になれば幸いです。


以下の項目をクリックすると各項目の説明に移動します。

屋内での実験-<模型車両の撮影>
初めての屋外撮影-<京浜急行と東京急行>
列車の長さが次第に伸びてしまうトラブル
スリットカメラを三脚に設置する時のトラブル
ギアのごみ付着によるトラブル
スリットカメラの振動防止策
スリットカメラ特有の縦じま模様の発生防止策
シャッターを切るタイミングと巻取りドラムの空転


屋内での実験

 中学生の頃、修学旅行に行くと
き買ってもらったハーフサイズカ
メラをいじくっているうち、スリット
カメラの製作を思いつきました。
 そこで身近な被写体としてHO
ゲージの模型を写してみることに
しました。フィルムを巻き戻すとき
にシャッターを開放状態にして手
動で巻き戻すのです。手動で巻き
戻したため、手ぶれやフィルムの
送りムラが見られます。
 フィルムの巻き戻し軸にギアを取
り付けモーターで巻き戻しを電動化
しました。その結果、画像はかなり
綺麗になったので、これならばうま
くいくと思い、そのハーフサイズカメ
ラを本格的にスリットカメラに改造
することにしました。そのハーフサイ
ズカメラの名はリコーキャディという
カメラです。当時のフィルムはすべ
てモノクロフィルムで現像はダーク
レスという簡易なフィルム現像器キ
ットを使っていました。

初めての屋外撮影

 一番最初に撮影したのがこの京浜急行の特急
電車(1000形)です。レンズはまだ交換式に改造
する前なので25mmという広角レンズです。ただ露
出などはF値をどう決めてよいのかわからず、結
果的にはかなり露出オーバーとなりました。
 現在の東急大井町線を走っていた5000系(通
称、青ガエル)を尾山台駅付近で撮影したもの
です。踏み切りの近くで撮影しましたが、撮影距
離をどのくらいにするかわからず、結果的にかな
り遠目の撮影となりました。

列車の長さが次第に伸びてしまうトラブル

次の写真は第1号機で撮影しています。第1号機等の画像はこちらです
 第1号機は改造元のカメラについているフィルム巻き
取り軸を使い電動化しているため、巻き取るに従い、フ
ィルムの厚みで巻き取り軸が太くなる、つまり、巻き取
り速度が次第に早くなってしまう欠点を持っていました。
 最初フィルムの巻き取り速度が適正(左の写真)
でも、次第に巻き取り速度が速くなることで、このよ
うに列車の画像(右の写真)が横に伸びてしまうよう
になります。

※ この問題を解決するため第3号機以降では、フィルム巻き取り軸を別に作り、巻き取り軸を太くしました。

スリットカメラを三脚に設置する時のトラブル

 自作スリットカメラの3号機以降はカメラを三脚に取り
付けるとき、カメラの底側にねじで取り付けられるだけ
でなく、カメラを天地逆にしても三脚に取り付けられるよ
うな構造になっています。これは、スリットカメラで撮影
するとき、列車の進行方向とフィルムの移動方向が逆
になるようカメラを三脚に設置する必要があるからです。
 もしこの取り付け方法を誤ると、JR251系もこのような
写真となりフィルムの移動速度が適正であってもこのよ
うにすべてボケたような写真になります。今までこの取り
付け方を間違えたことが、2回ほどあります。1回目は相
当昔の話ですが、準備のための時間が充分あったのに、
この原理を十分理解していなかったため逆方向にカメラ
を取り付けてしまいました。2回目はこの写真を撮影した
ときで、列車の通過する時間が迫っていたので、撮影準
備に追われているうち、錯覚して逆方向に取り付けてし
まいました。
 スリットカメラで撮影するときカメラの水平度には充分
注意しなければなりません。一般のカメラでは、鉄道車
両を撮影する場合、手持ち撮影でもカメラの傾きについ
てはあまり問題になりません。これに対しスリットカメラ
の場合には、カメラを設置するとき水準器を使って正確
に水平性を保たないとすべての車両の画像が傾いて写
り、特にドアや窓の縦の線の傾きが目立ちます。
 この写真は埼京線の205系ですが、正確に測ると若干
左に傾いていますが、目視では目立つほどの傾きでは
ありません。困るのは線路自体に傾斜がある場合です。
この場合は、水準器が使えないので、カメラの傾きと線
路の傾斜を実際見比べながら調整することになります。
 もっと傾いた画像の例をご覧になりたい場合は、こちら
をご覧ください。ただ、カメラが水平であることに越したこ
とはないのですが、もし傾いていても画像をパソコンに取り
込んでからフォトレタッチソフトで傾きを修正できます。




ギアのごみ付着によるトラブル

 私のスリットカメラでは
ギア部が露出しているた
め、屋外で撮影している
間にギアに砂埃等が付
着することがあります。
 それをそのままにして
おくとギア回転の際に引
っかかりとなり、写真のよ
うに比較的長めの間隔で
強い縞模様となって現れ
ます。
 これを防ぐにはギア部
を覆ってしまうか撮影前
によく清掃することです。

スリットカメラ振動防止策

 スリットカメラの撮影では高速で通過する列車の線路脇で撮影するため、列車通過に伴い地面を通じて振動がカメラに伝わり

下の写真のような波を打ったような画像になることがあります。焦点距離の長い望遠レンズを使えば線路からより離れることがで

きますが、反面、離れれば離れるほど長焦点のレンズが必要になるため、レンズの振動が画像に与える影響が大きくなる関係

にあります。そこで対策としては三脚の設置場所に足場の悪い所を避けることもあげられますが、下の図のようにもう1脚、レンズ

を支えるための支柱を設けることがより効果的です。

スリットカメラ特有の縦じま模様の発生防止策

 この画像は特に縞模様が強
く現れたケースですが、スリッ
トカメラの撮影による画像を見
ると、これほどではないにして
も、このように比較的短い間隔
で縞模様が現れている画像を
見ることはよくあることです。
 この種の縞模様はギア部に
付着したごみ等によって発生す
るわけではありません。
 それはギア部の僅かな噛み
合わせの等の不具合により発
生すると思われます。縞模様
の線を数えたところ平ギヤの
歯数と符合したことからも、主
な原因が明らかになりました。
 使用するスリットの幅等によ
っても縞模様の出方に大きく
影響します。
 
この写真は第5号機を改良する
ことにより、縞模様の発生がほ
とんど抑えられた画像です。
 この5号機ではスリットの幅
をちょうど1mmにすることでこ
のような画像の撮影が可能と
なりました。
 スリットの幅を1mmよりも狭
くするとはっきりと縞模様が現
れはじめます。光の干渉による
ものなのか理論的なことはよく
わかりません。 


シャッターを切るタイミングと巻取りドラムの空転

 スリットカメラで撮影するときは、列車がカメラの前方を通過するときに撮影するわけですが、ではいつ撮影を開始するかが問題となります。シャッターを開放にしてから列車が到達するまでの時間は、フィルムは無駄に撮影されるだけなのでこの時間は短いほうが良いのですが、この時間があまり短いと左の写真のようにモーターの回転速度が撮影するに必要な十分な速度に達しないことがあるため、写真のようにボケた寸詰まりの画像となります。ではカメラの前に列車が到達するまでどのくらいの距離が必要かというと、私のカメラでは50m程度あれば大丈夫なようです。
50mというと時速90キロの列車がカメラの前に到達するのに2秒かかります。左の写真の例ではシャッターを押す時間が、列車到達寸前の1秒もない時間内で、かなり慌てて押したためこのような写真になりました。
 このシャッターを押す時間の遅れと同様な現象がフィルムを巻くドラムを回す軸が空転することで発生します。フィルムを巻くドラムとその軸は製作当初はんだや接着剤で空転しないように固定したのですが、長年カメラを使い続けることで、この部分がゆるくなりドラムが次第に滑り始めました。当初はシャッターを押すタイミングの問題と思い、この空転現象を気づかなかったのですが、十分な撮影距離をとっても解決しないので、調べたところこの故障に気づきました。