平成24年6月:シングルアームパンタグラフ特集開設
平成29年11月:JR九州の特急車両の2画像を追加
平成30年5月:従来のA〜Cの分類方法をA〜Dとする
平成30年5月:新たに分類方式としてE方式を追加する
平成30年7月:新たにE235系とE657系の画像を追加
平成30年8月:JR北海道について特急の画像を追加
また、最後の検討結果についてもよりわかりやすく書き直しました。
令和5年12月:鉄道ダイヤ情報2024年2月号の特集
記事については
このページの最後をご覧ください。

従来からある菱形や下枠交差型パンタグラフは左右対称であることから問題にもなり
ませんでしたが、シングルアームパンタグラフはその形が左右非対称な形であることか
ら、その取り付け方向により肘部分の向きが変わることで2種類の取り付け方が見られ
るようになり、どちらの向きが多数派なのか、また、その理由が知りたくなりました。

この疑問は約10年ほど前から感じたていたのですが、幸い過去に多くの列車スリット写真
を撮影していることから、前面から撮影したコマ写真ではわからない列車側面写真専門の
スリット写真により分析することとしました。またJRばかりでなく大手私鉄等についても
シングルアームパンタグラフの向きについて調べることとしました。そこで「シングルア
ームパタグラフ取付方向大調査」と銘打ってたいそう大袈裟なタイトルをつけてみました。

シングルアームパンタグラフについて

シングルアームパンタグラフ(以下、「Sパンタ」と略します。)は昭和30年(1955年)にフランスの大手鉄道用機器メーカーフェブレー社 が開発し特許を取得したもので、欧州では古くから路面電車から高速車両まで幅広く普及していました。

わが国では昭和30年代に路面電車で使われていましたが、本格的に普及し始めたのは同社の特許保護期間が終了して日本国内メーカーによる製造に制約が無くなった1980年代末以降とのことで、これを本格的に採用したのは平成2年に営業を開始した大阪市交通局の70系電車とのことです。首都圏では平成5年頃、新京成の8900形に採用されたのが一番早いようです。

重量や部品点数や着雪の影響も少なく製造・保守コストの面でも有利なことから、その後ほとんどの新型車両に採用されることになりました。このSパンタの本格的普及により、従来の菱形パンタグラフは平成17年以降日本国内では製造されていないそうです。(主にウィキペディアより引用)


JR211系のSパンタから気が付いたこと

211系にはもともとPS21形という菱形パンタが装備されていましたが、平成20年9月頃に一部の列車からPS33E形のSパンタの付け替えが始まり、その後、ほとんどの211系にSパンタが取り付けられました。注1)

その後も211系のSパンタを見ていたところ同じ路線を走るE231系のSパンタとすべて取り付け方向が違っているのに気が付きました。並行して走る京浜東北線のE233系1000番台もE231系と同じ方向です。また、山手線E231系500番台も同じ方向でした。

そこで今まで撮影したJR等の車両のスリット写真のSパンタを調べたところ、211系だけが取付け方向が違っているというわけではなかったことがわかりました。

注1)211系の編成は平成27年3月に東北縦貫線「上野東京ライン」が開通後に既に上野口では見られなくなりましたが、この特集を始めるきっかけをつくってくれたものなので紹介させていただいております。
 
シングルアームパンタグラフの概観写真
(E351系)

 シングルアームパンタグラフの分類方法の図


Sパンタの取り付け方向の分類について

Sパンタの取り付け方向については、当サイトでJR各社や関東、関西の私鉄を撮影していることから、スリットカメラならではの側面画像からSパンタについて調べました。

その調査の結果、上の図のように5つの方式に大きく分類できることがわかりました。説明上、その方式をA〜Eの各方式で略称します。なお、この分類方法については説明のために必要ということで私が独自に考えたもので、何ら正式なものではありません。

Sパンタに限らずパンタグラフは台車と車体を連結する回転軸の上に取り付けるのが理想と思われます。そこでボギー車では左右の台車のいずれか又は両方の上にあるものという前提を下にこの分類を考えたものです。そこで路面電車やそれに類する短編成の車両は分類対象として除外しています。また電気機関車についても今回は対象外とします。

上の写真はE351系のSパンタ部分を拡大してみたもので、次の図はSパンタが実際の車両の屋根に取り付けられた状態をパターン別に示しています。それぞれの方式の違いは、Sパンタが人の腕の肘(ひじ)に当たる部分が取付けられた車両を中心としてどちらの方向を向いているかによります。また、この見分け方は図中※の説明にあるように車両の左右どちら側から見ても判断できるので合理的でわかりやすい方法です。

A方式は取り付けられた車両の車端に向いて取付けられた外向き方式で、Bはその逆で肘が車両の中央方向に内向きになっています。C方式は、1両に2基のSパンタが取付けられている例で、お互いに肘が車両の外方向に向いていることでA方式によるSパンタを2基取付けていることになります。さらにD方式ではお互いに肘が車両の内側に向いているB方式によるSパンタを2基取り付けているものです。最後のE方式は同じ方向を向くSパンタが2基取り付けられているものです。

以下にこの方法で分類したSパンタについてJR各社については写真付で、私鉄については主に一覧表を作成しましたのでご覧ください。


Sパンタの取付け方向による分類

<<JR編(1両1基搭載分のみ掲載)>>(JR東日本はJR社名を省略)
編成中に他の複数の車両にSパンタがついていても写真と同じ方向です。

Sパンタの肘が車両の外側に向いているA(外向き)方式  Sパンタの肘が車両の内側に向いているB(内向き)方式
 
宇都宮線、高崎線、東海道線E231系:PS33B形  中央線201系:PS35C形
 
京浜東北線E233系:PS33D形(予備パンタを除く)  京浜東北線の後に京葉線転出 209系500番台:PS33A形
 
総武本線E259系:PS33D形 (予備パンタを除く)  高崎線、宇都宮線211系:PS33E形
 
中央本線E351系:PS31A形 スーパーあずさ用(振り子式)  ジョイフルトレイン(彩):PS32形 485系初めてのSパンタ
 
ジョイフルトレイン(和み)E655系:PS32A形  中央本線E257系:PS36形 あずさ用
 
山手線E231系500番台:PS33形  常磐線E531系:PS37A形
 
115系1000番台:PS35形 新潟色  常磐線E653系:PS32形 フレッシュ日立
 
JR西日本225系0番台:WPS28C形  JR西日本E683系4000番台:WPS28D形 サンダーバードです
 
JR九州883系:PS401K形 ソニック、かがやき用(振り子式)  JR東海371系:PS27A形 あさぎり用
   
 JR九州885系:PS401K形 かもめ、ソニック用(振り子式)  651系1000番台:PS33形 特急草津等
山手線E235系:PS33形(6号車予備パンタを除く) E657系:PS37A形 スーパーひたち、常盤用
 まだ 画像無し
E353系:PS39形スーパーあずさ等用(空気ばね式) JR北海道785系:N-PS789形 
 
  JR北海道789系:N-PS789形 スーパー白鳥等

JRの車両でC(外向き2基搭載)方式は少ないですが、例えばJR東海313系3000番台などがあります


<<私鉄編>>
下の表から車両形式欄の形式等をクリックすると、実際に
Sパンタを搭載した各車両のスリット写真がご覧になれます

電鉄会社名 車 両 形 式 方式
小田急電鉄 30000形EXE A
50000形VSE
60000形MSE A
1000形 B
3000形 A
4000形 A
8000形 B
京王電鉄 8000系 A
9000系 A
京成電鉄 ニュースカイライナー A
3050系 A・C
3000系 C
京急電鉄 新1000形 A・C
相模鉄道 8000系 A
新京成電鉄 8800形6連 C
8900形 C
N800形 C
近畿日本鉄道 22600系4連 A
22600系2連 E
50000系(未撮影) B・E
3220系 B・E
京阪電鉄 3000系  A
阪急電鉄 9300系 C
西武鉄道 20000系 A
東京メトロ 08系 A・C
東急電鉄 5000系 A・C
5050系 C
6000系 A・C
8090系5連 A
8500系5連 A
東武鉄道 250系 A
30000系 A・C
50050系 A
つくばエクスプレス TX2000系(未撮影)


 
 


検討結果について

当サイトの画像を検討した結果、以下のことがわかりました。

JR東日本についてはいくつかの例外はありますが、B(内向き)方式は古い系列の電車やパンタグラフをSパンタに取り替えた車両に多く、逆に最近の車両にはA(外向き)方式が多い傾向にあります。(注2)

ただしJR各社単位で見てみるとJR北海道の車両だけが全てB(内向き)に統一されているようです。これはJR東日本では交流区間のある常磐線だけがB(内向き)方式に統一されていることに似ています。

JR九州も全区間交流ですが特急形電車がA(外向き)方式なのに対して、それ以外の電車は最新の車両を見てもB(内向き)方式です。これは特急形電車が振り子式電車であることと関係ありそうです。

私鉄については上の表のとおりA方式が一番多いのですが、次に1両に2基の外向きのSパンタを搭載するC方式が特に多いのが特徴です。これはパンタグラフの離線があると電力回生ブレーキの効きが悪くなることや、夏場の冷房の電力をより確実に確保するためにパンタグラフの数を増やしているようです。なお、私鉄ではB方式は少数派です

E233系については予備パンタを上げればC方式になりますが、常時使用していないので今回はA方式に分類しています。また、E253、E259系の予備パンタや211系の霜取り用パンタについても同様に対象からはずしています。

なお、新幹線車両については、その構造が特殊なものであったり、また、進行方向で使用するパンタグラフが異なるなど同様な配置の法則が適用できないことがわかりましたので対象としておりません。

D方式については小田急のロマンスカー(VSE車)は連接車であるが故に採用した方式ですが、つくばエクスプレスの直流車のTX1000系2基搭載車がC方式なのに対し、同TX2000系は交直両用車のためか2号車と4号車ともD方式となっています。

最後のE方式ですがJRでは日光線に使われている205系を改造した600番台の中間車がこの方式で、私鉄では近鉄以外では阪神の1000系、5700系、9000系の中間車の一部に見ることができます。
 
最後にこの調査を行うに至ったのは、Sパンタについて鉄道技術者のような専門的視点ではなく、単なる1鉄道ファンとしての素朴な疑問からです。そのため当該調査は実態調査的なもので取り付け方向の実態に即した分類に焦点を当てたものです。つまり列車側面(スリット)写真というものを活用して全国的な調査により、Sパンタについて取り付け方向を独自にパターン化してみたものです。鉄道ファンは概して車両の外観にこだわるものですが、鉄道ファンの方の中には利用している特定の限定された地域だけ見ている場合もあると思います。その地域では数が多く当たり前のような取り付け方が全国的にはレアであることもありえます。この調査法ではまだ不十分なことも多いと思われますが、鉄道ファンの皆様の知識や活動に少しでも寄与できれば幸いです。

注2)B方式は古い車両やSパンタに取り替えた車両に多いと思っていましたが、例外がありました。それは
量産車ではありませんが、平成29年5月にデビューしたJR東日本の「四季島」で、1編成のみでB方式です

また、常磐線の新型特急E657系についてもB方式ですが、これは旧651系等と同じにしたためと思われます。

      ※2024年2月号の鉄道ダイヤ情報誌の特集:集電装置
  2月号の特集:集電装置の中でシングルアームパンタグラフの”ひじ”の向きについて解説されている記事があったのでご紹介します。対象となる集電装置の向きについては車両の終端に対し”ひじ”の向きの方向で外向きや内向きを区別するのは同じでした。車両については電気機関車を例にとった写真や解説がありました。
 電車については小田急と東京メトロの車両で内向きと外向きの違いを解説していましたが、注目されたのは近畿日本鉄道については近鉄独自の方法であることが分かりました。それはパンタが1両に1基でも2基の場合でも1編成全体を同じ向きに揃えることで機器類の配置方法もわかりやすくするためだそうです。

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